東京地方裁判所 昭和62年(ワ)16219号 判決
一 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び成立に争いのない甲第一号証の二によれば、本件第一項発明の構成要件は、被告の主張1のとおりであることが認められる。そして、被告が被告装置を備えた被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない(被告装置の構造を示す別紙目録の三装置の構造の説明については、一部争いがある。)。
二 そこで、被告装置が、本件第一項発明の構成要件Bを充足するか否かについて判断する。
1 成立に争いのない甲第一号証の二(本件公報)によれば、(一)本件明細書には、(1)本件発明は、ベルトの張力を自動調節する機構を有するベルト伝導装置に関するものである、(2)従来のベルト駆動装置は、駆動車と従動車にタイミングベルトを掛架した機構であるが、大きな駆動力を与えると、駆動側のベルトが弾性によつて伸長するために、弛緩側のベルトが弛み、その結果、従動車のベルト進入側の歯先へ弛緩したベルトの歯先が乗り上げて空転をするなどの不具合が生じた、(3)右欠点を除くには、弛緩側のベルトにばねにより付勢したテンシヨンローラを設けて、弛緩を防止するのが一般的であるが、この場合は、弛緩側のベルトの弛み代が大きくなると、テンシヨンローラのばねの伸び量も大きくなるため、ベルトの押し上げ力が弱まつて、大きな駆動側ベルトの張力に対して弛緩側ベルトの張力が小さくなり、その結果、空転を生じやすくなるなど、駆動力に応じたベルト張力の調節機構としての従来装置は、理想的なものではなかつた、(4)本件発明は、右のような欠点を解消するために、駆動車と従動車の軸間距離が駆動力に応じて変位し、自動的に最適なベルト張力を得ることによつて、空転を防止し、ベルトの耐久性の向上を図ることを目的として、特許請求の範囲の記載のとおりの構成を採用し、これにより、従来装置のようにテンシヨンローラを用いる必要がなく、駆動車と従動車の軸間距離が駆動力の大きさにほぼ比例するように自動的に変位して、ベルトの駆動側張力に適合した弛緩側張力が得られるようにして、その結果、ベルト伝動の空転を防止するとともに、ベルトの耐久力を向上することができ、また、駆動抵抗を各負荷時においてそれぞれ最良に保つことができ、更に、ベルト伝動の自動張力調節機構として汎用性に富んでいるなどの効果を奏する、(5)本件第一項発明の実施例のギヤ機構に関しては、「内輪駆動車12には軸心が変位できる外輪駆動車14をギヤ機構により内接噛合すると共に」(本件公報一頁2欄二九行ないし三〇行)と記載されており、また、(二)本件発明の特許出願の願書添付の図面には、本件第一項発明の実施例として、本判決添付の本件公報第2図のとおりのものが図示されている、以上の事実が認められる。
2 右認定の事実によれば、本件公報第2図に図示されたベルト伝動装置には、内輪駆動車12に外輪駆動車14を「ギヤ機構」により内接噛合する機構が実施例として図示されており、この実施例として図示されている「ギヤ機構」は、「歯車伝動機構」であつて、「内輪駆動車12」は歯車伝動機構を構成する「内歯車」に、「外輪駆動車14」は同機構を構成する「内歯歯車」にそれぞれ該当するものと認められる。しかしながら、本件明細書及び願書添付の図面には、右の実施例として図示されているもののほかに、どのような構成のものが「ギヤ機構」に含まれるのか、その意味を明らかにするような明示的な記載は存しない。そこで、まず、右の図示されているものを手掛りとして、更に、本件明細書及び願書添付の図面の記載上、被告装置の「継手機構」のような構造のものが右の「ギヤ機構」に含まれるか否かについて検討を加えるに、被告装置を示すものであることについて争いのない別紙目録(争いのある点は除く。)の記載によれば、被告装置は、駆動デイスク9に設けた八個のピン11及びこれに嵌合されたローラ13を、プーリー14に設けられたローラ13の直径の約二倍の内径を有する八個のリング状ポケツト14b内にそれぞれ遊嵌させておき、駆動デイスク9の回転トルクをピン11及びローラ13とリング状ポケツト14bを介してプーリー14に伝達する構造であり、また、プーリー14の偏心量は種々に変化するものであるから、継手機構において、ローラ13とこれに対応するリング状ポケツト14bのすべてが同時に接触して回転するのではなく、一部のローラ13のみがリング状ポケツト14bと接触し、駆動デイスク9の回転に従い、接触するローラ13及びリング状ポケツト14bが順次移行していくものと認められる。右被告装置の構造によれば、被告装置の継手機構は、駆動デイスク9に樹立させた複数本のピン11及びローラ13のすべてが、プーリー14の各対応するリング状ポケツト14b内に嵌合しており、嵌合するリング状ポケツト14bが常に同一であり、したがつて、前示第一項発明の実施例として願書添付の図面に図示されているような、噛合する両歯車の組合せが種々変化する歯車伝動機構とは、この点において異なる機構であると認められる。また、右被告装置の構造によれば、被告装置の継手機構は、ローラ13とリング状ポケツト14bとの間には大きな間隙が存在し、両者の接触位置の移動によつてプーリー14の軸心が変位すると認められる。他方、前示本件第一項発明の実施例として願書添付の図面に図示されているものは、内歯車と内歯歯車を内接噛合する場合、噛合する両歯車の歯間に大きな間隙が存在すると、伝達するトルクが少数の歯に集中して強度上問題が生じたり伝達効率が悪化するので、技術常識上、このような間隙は設けられず、図示されているところによると、本件発明の構成要件Bの「軸心が変位できる外輪駆動車」というのも、噛合部分における内歯車と内歯歯車間の間隙によつて変位するのではなく、噛合部分の移動によつて外輪駆動車が変位するものと認められる。この点においても、ローラ13とリング状ポケツト14bの接触位置の移動による被告装置の継手機構は、噛合部分の移動を前提とする、前示本件第一項発明の実施例として願書添付の図面に図示されている歯車伝動機構とは異なる機構であると認められる。更に、右被告装置の構造によれば、被告装置の継手機構は、ローラ13とリング状ポケツト14bの回転比率は一対一であると認められるが、前示本件第一項発明の実施例として願書添付の図面に図示されている歯車伝動機構は、内歯車と内歯歯車の歯数を同数とすることは技術上ありえないのであつて、この点においても、右の両機構は異なる機構であると認められる。このようにみてくると、被告装置の継手機構は、前示本件第一項発明の実施例として願書添付の図面に図示されている歯車伝動機構とは技術上相違する機構であると認められる。そして、更に、前掲甲第一号証の二(本件公報)により本件明細書及び願書添付の図面の記載を子細に検討してみても、その記載上、本件明細書及び願書添付の図面には、被告装置の継手機構が本件第一項発明にいう「ギヤ機構」に含まれることを示唆するような技術事項の開示があるとは認められない。そうすると、被告装置の継手機構は、本件明細書及び願書添付の図面上認められる歯車伝動機構とは技術上相違する機構であるといわざるをえない。
3 次に、先行技術上、本件第一項発明にいう「ギヤ機構」と被告製品の「継手機構」との異同について検討するに、成立に争いのない乙第三号証によれば、昭和四八年七月三〇日に出願公告された特公昭四八―二五五四五号特許公報記載の発明は、原告自身の出願に係る自転車用ギヤクランクの発明であつて、被告装置と同様に、ピンとポケツトとを嵌合させた伝動機構であるにもかかわらず、その明細書において、右機構について「ギヤ機構により内接噛合する」というような説明はされておらず、「軸11に嵌装したガイドローラ12をそれぞれギヤ板6の長孔6c内に摺動自在に嵌合し」と説明されていることが認められる。また、成立に争いのない乙第四号証によれば、昭和五四年一一月二九日に公開された実開昭五四―一六九三六〇号公開実用新案公報記載の考案も、被告装置と同様に、ピンとポケツトとを嵌合させた伝動機構であるにもかかわらず、その明細書には、「デイスクを連結するように該軸部の中心と同心の円上に等間隔に固着された複数のピン部材を前記チエーンホイールの複数の小穴に夫々貫通させ」という説明がされ、ギアを噛合するというような説明はされていないことが認められる。更に、成立に争いのない乙第四一号証によれば、昭和三四年一〇月二〇日に出願公告された特公昭三四―九三六四号特許公報記載の発明も、ピンとポケツトとを嵌合させた伝動機構であるが、その明細書においても、「ローラー16は………同数の円形凹窪23内に嵌入した状態に於て該凹窪23の内周壁にそれぞれ接触して、これにより1個の連動接手を形成し」と説明され、ギヤ機構というような説明はされていないことが認められる。以上認定の事実を総合すれば、本件発明の属する技術分野においては、一般に、被告装置の継手機構のように、ピン又はローラとポケツトとを嵌合させた伝動機構は、「ローラを孔内に嵌合し」といつた用語で表現され、「ギヤ機構により内接噛合する」というような用語は用いられておらず、用語上も、ギヤ機構とは別個の機構であると観念されているものと認められる。
4 原告は、証拠を挙示して、被告装置の継手機構は本件第一項発明のギヤ機構に属する旨を主張するので、原告挙示の証拠について検討するに、成立に争いのない甲第三号証の一ないし五によれば、理工学社が一九六六年一〇月三〇日に発行した機械の素復刊委員会編「新編機械の素」には、「内歯車とピン歯車」が「歯車および歯車装置」の章に、「ころ付き歯車」が「変形歯車」の章にそれぞれ掲載されていることが認められ、右認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、歯車及び歯車装置の一種である「内歯車とピン歯車」、変形歯車の一種である「ころ付き歯車」をはじめ、ピン又はローラと円弧状凹陥部との係合によるトルク伝達機構の中には、機構学的にギヤ機構であるとされているもののあることが認められる。しかしながら、右証拠によつても、ピン又はローラーと円弧状凹陥部とを係合させるトルク伝達機構であれば、すべて機構学的にギヤ機構であると認められているとまでは認定することができない。かえつて、前掲甲第三号証の一ないし五によれば、右の「内歯車とピン歯車」のような伝動機構は、噛合する両歯車の組合せが変化する点、噛合する両歯車の歯間に大きな間隙が存在しない点、両歯車の歯数が異なるといつた点で歯車伝動機構の特徴を具備していると認められ(なお、右の「ころ付き歯車」は、すべての点において右の伝動機構とは同一ではないが、歯車伝動機構であることは疑いのないところである。)、右認定の事実によると、右甲号各証は、被告装置の継手機構は本件明細書及び願書添付の図面上認められる歯車伝動機構とは技術上相違する機構であるとの前認定判断を左右しないものというべきである。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五、第七号証、被告製品のテスト品であることについて争いのない検甲第二号証、本件特許権の実施品と被告装置との中間的構造を有する回転伝達装置を装備したテスト用自転車であることについて争いのない検甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品についてプーリー14のリング状ポケツト14bの内周側を切除して内歯歯車状の半円弧状凹陥部を形成しても(検甲第二号証)、被告製品の走行上何ら支障がないこと、また、ピンと円弧状凹陥部の数を変更しても(甲第七号証、検甲第三号証)、自転車の走行上何ら支障がないことが認められる。しかしながら、前掲検甲第二号証によれば、被告装置のリング状ポケツト14bの内周側を切除して内歯歯車状の半円弧状凹陥部としても、この機構は、ピン11及びローラ13のすべてがプーリー14の各対応するリング状ポケツト14b内に嵌合しており、係合するリング状ポケツト14bが常に同一であるという点、ローラ13とリング状ポケツト14bとの間には大きな間隙が存在し、両者の接触位置の移動によつてプーリー14の軸心が変位する点、ローラ13とリング状ポケツト14bの回転比率が一対一である点において、依然として被告装置における継手機構の特徴をそのまま具備しており、前示歯車伝動機構の特徴を備えていないと認められる。したがつて、検甲第二号証のような形状を有する内歯歯車状の半円弧状凹陥部を形成して、被告製品の走行に支障がないからといつて、被告装置の継手機構が実質的にギヤ機構であるとは認められない。更に、前掲検甲第三号証によれば、同検甲号証の回転伝達装置は、中間的構造を有するとはいつても、噛合するローラと円弧状凹陥部の組合せが変化する点、噛合する両者間に大きな間隔が存在しない点、両者の数が異なるといつた点において、前示歯車伝動機構の特徴を完全に具備しており、この意味では中間的形態であるとは認められないから、検甲第三号証の機構によつて、被告装置の継手機構の性質をうんぬんすることはできない、といわざるをえない。
5 そのほかにも、原告は、被告装置は本件第一項発明の構成要件Bを充足するとして、その理由を主張するので、右主張について以下判断を加えることとする。
(一) 原告の反論1(三)について
被告装置の継手機構は、前認定のとおり、ローラ13とこれに対応するリング状ポケツト14bのすべてが同時に接触して回転するのではなく、一部のローラ13のみがリング状ポケツト14bと接触し、駆動デイスク9の回転に従い、接触するローラ13及びリング状ポケツト14bが順次移行していくものと認められる。しかしながら、被告装置の継手機構においては、プーリー14の偏心量は種々に変化しても、それぞれのピン11及びローラ13は、常に同一のリング状ポケツト14bと係合しており、歯車伝動機構のように係合する対象が移動することはない点において、歯車伝動機構(内歯歯車と内歯車とからなるもの)とは基本的に異なるものと認められるから、駆動デイスク9の回転に従い接触するローラ13及びリング状ポケツト14bが順次移行していくからといつて、被告装置の継手機構は前示歯車伝動機構とは相違するとの前認定判断は左右されない。
(二) 原告の反論1(四)について
成立に争いのない甲第一五号証の一ないし四によれば、株式会社技報堂が昭和三二年一〇月一五日に発行した芦葉清三郎著「機械運動機構」には、機構学的に運動伝達機構を大別すると、リンク機構、カム機構、摩擦伝動機構、歯車伝動機構、捲掛伝動機構となる旨記載されていることが認められるが、前認定の理由により、被告装置の継手機構が歯車伝動機構に属すると認められない以上右認定の運動伝達機構の分類は、前認定を左右しない。
(三) 原告の反論1(五)について
成立に争いのない乙第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし三、第四〇号証の一ないし五、第四一号証によれば、これら証拠において紹介されている「食違い軸継手」は、構造上ピン中心と丸穴中心の距離が偏位距離に等しく、不変であることが認められるが、前認定の理由により、被告装置の継手機構が歯車伝動機構に属すると認められない以上、被告装置が右の「食違い軸継手」に属するか否かは、前認定を左右しない。
(四) 右のとおりであつて、原告の主張は、いずれも採用することができない。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却する。
〔編注1〕本件における請求の原因は左のとおりである。
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。
発明の名称 自動張力調節機構を有するベルト伝動装置
特許番号 第一二一六八九七号
出願年月日 昭和五五年七月一〇日
公告年月日 昭和五八年一〇月二四日
登録年月日 昭和五九年七月一七日
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当項記載のとおりである。
3 被告は、ベルト伝動装置(以下「被告装置」という。)を備えた新ベルトドライブ方式(さわやかベルト)の自転車(以下「被告製品」という。)を製造販売しているところ、被告装置の構造は、別紙目録記載のとおりである。
4 被告装置は、次のとおり、本件明細書の特許請求の範囲第一項の発明(以下「本件第一項発明」という。)の技術的範囲に属する。
(一) 本件発明は、駆動車と従動車の軸間距離を駆動力に応じて変化させ、自動的に最適なベルト張力を得ることによつて、歯とびによる空転を防止し、ベルトの耐久性の向上を図ることを目的とするものである。これに対して、被告装置の目的も、右の本件発明の目的と全く同一である。
(二) 次に、構成について、被告装置を本件第一項発明と対比するに、形式的にいえば、その相違点の一つは、本件第一項発明が、内輪駆動車12(番号及び符号は、本件公報記載のものを指す。本件発明について以下同じ。)に外輪駆動車14をギヤ機構により内接噛合させて回転トルクを伝達するのに対し、被告装置は、駆動デイスク9(番号及び符号は、別紙目録記載のものを指す。被告装置について以下同じ。)に設けた八個のローラ13をプーリー14に設けた八個のリング状ポケツト14b内にそれぞれ遊嵌させておき、駆動デイスク9の回転トルクを前記ローラ13とリング状ポケツト14bを介してプーリー14に伝達する点にあるようにみえる。すなわち、ギヤ機構によるトルク伝達手段と、ローラ13とリング状ポケツト14bとの嵌合によるトルク伝達手段との違いであるようにみえる。
しかしながら、実質的にみるならば、この被告装置における同一円周上に配置した多数のローラ13と、同じく同一円周上に配置した多数のリング状ポケツト14bとの係合によるトルク伝達手段は、広義のギヤ機構に属するものである。すなわち、理工学社が昭和四一年一〇月三〇日付で発行した「新編機械の素」(甲第三号証の一ないし五)の五〇頁ないし七五頁には、「歯車および歯車装置」及び「変形歯車」が記載されているところ、その五四頁には、「9・15内歯車とピン歯車」の記載があり、また、七四頁には、「10・32ころ付き歯車」の記載がある。これらの記載から分かるように、ピン又はローラと円弧状凹陥部とによるトルク伝達機構は、機構学的にギヤ機構として古くから認められており、少なくともローラと円弧状凹陥部とによる伝動機構は、歯車伝動機構(ギヤ機構)の一つである。このことを裏付けるものとして、昭和六二年九月五日発行「自動車流通新聞」一七頁の「宮田工業」の「さわやかベルト」(被告装置) の紹介(甲第二号証の二)及び昭和六二年九月二〇日発行「東洋輪界新聞」三頁の同じ「さわやかベルト」の紹介文(甲第四号証)がある。これらには、被告装置である「さわやかベルト」の主構成部材が「ローラギヤ」であることを表示しているところであつて、被告装置の駆動デイスク9か「ローラギヤ」であることは、被告自身も認めているのである。被告装置の駆動デイスク9とプーリー14との伝動機構は、ギヤ機構の一つであるといわなければならない。
(三) なお、前記甲第三号証記載のピン又はローラと係号するものは、内歯歯車又は外歯歯車の円弧状凹陥部であるのに対し、被告装置のものは、多数のリング状ポケツト14bを配置した形状をとつていることから、その点が相違しているという考えもあるかも知れないが、原告が被告装置を分解し、そのプーリー14のリング状ポケツト14bの内周側を切除したものを示す図面(甲第五号証)をみると、図示されているように内歯歯車状の半円弧状凹陥部とした後、これを再び組み立てて自転車に装着して走行実験した結果、何ら支障のないことが確認されている。したがつて、被告装置のプーリー14は、実質的に、半円弧状凹陥部を円周に配置した内歯歯車と何ら変るところがない。
(四) 以上のとおりであつて、被告装置のローラ13とリング状ポケツト14bとの回転伝達機構は、これをギヤ機構とみることができるのであり、被告装置は、本件第一項発明の構成要件をすべて充足するものである。
(五) また、作用効果についてみるに、本件第一項発明及び被告装置は、いずれも、浮動リング方式によつて、駆動車と従動車間の軸間距離を変化させることにより、駆動力に応じて自動的に最適なベルト張力を得るようにし、その結果、歯付きベルト(タイミングベルト)の歯とび現象を防止するとともに、ベルトの耐久性を向上させる効果がある。本件第一項発明と被告装置とは、全く同じ作用効果を有しているのである。
(六) 以上のとおり、被告装置は、実質的に、本件第一項発明の構成要件をすべて充足しており、また、目的及び作用効果も、本件第一項発明及び被告装置ともに同一であるから、被告装置は、本件第一項発明の技術的範囲に属するものである。
5 被告は、被告製品を販売する行為が本件特許権を侵害するものであることを知りながら、昭和六二年八月から同年一一月までの間に、月間三〇〇〇台以上、合計一万二〇〇〇台以上の被告製品を一台当たり少なくとも二万円で販売した。被告は、右被告製品の販売により、一台当たり六〇〇〇円以上、合計七二〇〇万円以上の利益をあげたが、被告製品の販売価格のうち、被告装置の占める割合は四分の一以上であるから、被告が本件特許権の侵害行為により受けた利益の額は一八〇〇万円であり、原告が被つた損害の額は、右と同額であると推定される。
6 よつて、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告製品の製造販売の差止、損害賠償金一八〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。
目録
一 図面の説明
添付第一図ないし第五図は被告が製造販売している「新ベルトドライブ方式(さわやかベルト)の自転車」の要部を図面化したものであり、第一図はその自転車の駆動装置の全体を示す側面図、第二図はプーリーと駆動デイスクに枢支したローラとの係合状態を示す正面図、第三図は第二図のⅡ―Ⅲ線による断面図、第四図はこの駆動装置の静止時におけるプーリーと駆動デイスクの関係を示す説明図、第五図は同じくこの駆動装置の駆動時におけるプーリーと駆動デイスクの関係を示す説明図である。
二 符号の説明
1 前輪
2 後輪
3 フレーム
4 クランク軸
5 クランクアーム
5a ボス部
6 クランクペダル
7 後車軸
8 従動車
9 駆動デイスク
10 デイスク
11 ピン
12 ゴムリング
13 ローラ
14 プーリー
14A プーリー部材
14B プーリー部材
14a 中心窓
14b リング状ポケツト
14c 歯
15 ビス
16 ナツト
17 歯付きベルト
三 装置の構造の説明
装置はクランクアーム5による動力を歯付きベルト17を介して後輪側従動車8に伝えるための伝動装置であつて、その継手機構は、クランクアーム5と一体の駆動デイスク9と、該駆動デイスク9に対して左右両側から接合されるプーリー14とから構成されている。
駆動デイスク9は、クランクアーム5のボス部5aに、駆動デイスク9を構成するデイスク10を同心状態にて固着し、このデイスク10の外周端縁に沿つて八本の円柱状をしたピン11を周方向等間隔位置に配置して、それぞれデイスク10に対して直交する方向に貫通固着し、更に、デイスク10の両側面に突出した各ピン11にはゴムリング12を介して僅かにこれよりも径の小さいローラ13がゴムリング12とともに回転自在に嵌合されている。
プーリー14は、中央部に中心窓14aを有するドーナツ状をした左右一対のプーリー部材14A・14Bを相互に対向するように重ね合わせた状態でビス15とナツト16とにより一体に結合したものであつて、各プーリー部材14A・14Bはまた、その重ね合わせた状態において中心部に駆動デイスク9のデイスク10の板厚より僅かに大きいデイスク用の空間部を有しており、前記駆動デイスク9の側面に突出する八個所のピン11とそれぞれ対応する位置にローラ13の直径の約二倍に近い内径のリング状ポケツト14bが周方向の等間隔位置に当たる八個所に形成されており、更に、プーリー14の外周面には歯14cが全周にわたり形成されている。前記駆動デイスク9はこれと一体のクランクアーム5のボス部5aをプーリー14の中心窓14a内に位置させ、また、デイスク10をプーリー14のデイスク用の空間部内に位置させ、更に、周方向八個所のゴムリング12及びローラ13をプーリー14の各リング状ポケツト14b内にそれぞれ位置させている。そして、プーリー14と従動車8との間に無端状の歯付きベルト17を掛け渡す場合に、従動車8の軸心と駆動デイスク9の軸心01(第四図参照)を結ぶ線分Aと駆動デイスク9の軸心01からの垂線Bによつて仕切られた弛緩側偏心区域Cにプーリー14の軸心02が第四図及び第五図に示すように任意量偏心して位置するように歯付きベルト17の長さを設定して自動張力調節機構を構成している。
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〔編注3〕本件特許発明の明細書添付の図面は左のとおりである。
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